膝の上で




 ここは木造二階建て築数十年のアパートの一室。
 畳敷きの質素な部屋の真ん中にはお約束通りちゃぶ台が置いてあり、その横では赤毛の子供と鳥頭が何事かを語り合っている。
 鳥頭は別に比喩ではなく本当に鳥の頭というかむしろ鳥ヘルメット頭というか、とにかくその格好のままコンビニに行ったらメットを取れと入店拒否されそうな微妙な格好の鳥頭は式神のフサノシン。
 隣の子供はフサノシンの契約者のソーマ。見た目は子供頭脳は大卒、でもどんな事件が解決できるわけでもなくとりあえずこのアパートに身を寄せている今日この頃。
 さて、ソーマは何か良くないものを見てしまったらしい。
「…………それで、リクとコゲンタが裸で………………」
 切々と語ってくるソーマの言葉にうんうんと空返事で頷きつつ食事に毒盛るぞここの家の連中とか物騒な事を思うフサノシン。いやそもそもここの家主の作る食事は何もしなくても毒のような有様なので少しくらい異物を盛ったところで何事も無く済んでしまう気もするが。
 フサノシンはとりあえず落ち着こうと思い、ちゃぶ台の上の湯のみを手に取り口元に運ぶ。ソーマは言葉を続ける。
「………………それで、ボク実は前に兄さんとラ」
 ンブッ、と啜っていた茶を吹いてしまい最後までは聞こえなかったが聞かずとも想像はつく。いやむしろ聞きたくない。
「………で、苦しそうにしてたと思ったら………………」
 フサノシンは頭を抱える。
 ……………白虎族は手が早いのだろうか…………。
「フサノシン?」
「い、いやなんでもない………………」
 なんでもあるが平常心平常心。
「それで、もしかして闘神士として強くなるのって裸で………………」
 ビキッ。
 何の音かは分からないが砕ける音がした。
「?」
 不審がってソーマは周囲を見渡すが壊れた物など見当たらない。
 それはそうだ、何故ならそれはフサノシンの理性に一瞬強烈にヒビが入った音というか背景効果の擬音なので本当なら聞こえるはずも無く。
「あ、いや話を続けてくれ…………」
「………僕も強くならないといけないのかな………………」
 ガチャン。
 清清しい音と共にフサノシン湯飲み粉砕、飲み終わっていてよかった。
「いや、ソーマ、………そういう話をまっ昼間からされても困る!」
「………は?」
「……いや…………すみません失言でした」
 本音トーク炸裂でフサノシンは自爆する。見事に焦げた焼き鳥だ。
「………変なの、フサノシン」
 ソーマは立ち上がると襖を開けて隣の部屋に行ってしまった。
「はぁ――――――――」
 幸せ全部逃げ出していきそうな深い溜息をついてフサノシンは湯飲みの破片を掃き集める。羽根がついてるとこういう時に微妙に便利だ……。破片をまとめると台所に持って行き萌えないゴミ箱に入れておく。まぁそりゃ湯飲みは萌えないだろう。
 そんなこんなでソーマに萌え萌えしつつ邪念まみれの己を恥じつつ部屋に戻ったフサノシンだったがすぐに隣の部屋からソーマの呼ぶ声がした。
「なんだ、ソーマ」
 襖を開けたフサノシンの目に飛び込んできたのは。
 布団。ついでに全裸。
「で、フサノシン。ボクどうすればいいのさ」
 思わず後ろ手で襖をびたっと閉めた。だ、誰も居ないよな、誰も見てないよな。
「なななななななななななな」
「何だよフサノシン、さっきの話聞いてなかったの?強くなるのにボクと………」
 うぁ………とフサノシンは内心で唸る。無防備にこんな格好をされて我慢出来るほど自分の自制心は多分強くない。カモですよカモ、しかもネギ束背負ってますよ。猛禽類としてはお持ち帰りの後に風呂に入れておいしくいただいてしまいますよ。
「フサノシン?」
 ……………………………。
「…………とりあえず、落ち着かせてくれ」
 落ち着かない股間の陰陽手槍は既に抜き身になってスタンバイしている。ちなみに手槍ってナイフだよね?


「きゃふ…………っ…………」
 壁際に立たされたソーマは女の子みたいな悲鳴を上げて身じろぎする。
「い、嫌だったか?」
 膝を付いてソーマの前に座っているフサノシンは慌てて声をかける。
「う、ううんそうじゃなくて…………」
 そして顔を赤らめてソーマは言った。
「なんか…………変で…………」
 フサノシンは再び舌先でそっとソーマの皮を被ったままの性器を撫でる。その度にソーマは小さく声を上げる。
 フサノシンはもっと深く咥えようとするが突き出した嘴が邪魔になってソーマの腹が口元に届かない。
「ソーマ、横になって」
 そう言われて不安げに布団に横たわるソーマ。
 フサノシンはソーマと頭と腰が互いに逆になるように覆い被さる。フサノシンの頭の前にソーマの腰が、ソーマの頭の前にフサノシンの腰がある。
 嘴を脚の間の空間に入れ、ソーマの淡く色付いた性器を深く口の中に含む。
「ひあぁぁ……っ!」
 ソーマが高く声を上げる。
「ふ、フサノシン…………」
 恥ずかしそうに身をくねらせるソーマ。逃げ出したいような気持ちであろう事は反応で分かっているが、柔らかく、しかししっかりとソーマの身体を掴んでフサノシンは逃がさない。
 そのまま口の中でソーマに舌を絡める。
「やっ、や、やっ!そんなこと……ひあぁぁっ!」
 口で扱かれる未知の感覚にソーマは爪先まで震わせる。
 自分の中で元気になってくるソーマの身体を愛おしそうにフサノシンは舐め上げる。
「っ!」
 突然びくっ、とフサノシンが身体を震わす。
 ソーマの手が腰の膨らみを服の上から摩っていた。それに驚いてソーマは手を離す。
「フサノシンのが……おっきくなってて……ビックリして………」
 そして尋ねる。
「フサノシンも……キモチ………イイの?」
 真っ赤になりながら聞いてくるソーマにフサノシンは言った。
「…………見る?」
 躊躇いながらも答えるソーマ。
「うん………」
 ズボンの前を開いて性器を露出させるフサノシン。
 先端から透明な汁が漏れ出して赤黒く光って見える。
「………………あ……なんか………ちが………う…………………」
 ソーマの手が直接フサノシンの起立を撫で回す。
「……ッ!」
 その刺激に一層膨らみを増すそれにソーマは真っ赤になる。
「………………コレを……挿れるんだぜ………?」
「え………………」
 フサノシンは横たわっているソーマの身体の上で回ると柔らか腿を掴みぐいっと左右に開かせた。
「ソーマのなかに………………」
 フサノシンは濡れた自分の起立をソーマの脚の間に当てた。
「ソーマ、力抜かないと………痛いかも………」
 そのままゆっくりとソーマに挿れていく。
「……………やっ………やぁぁ………………っ………!」
 予想通りソーマの目から涙がこぼれ出す。
「やっぱり、泣くよな………」
 きつくて堪らない場所になるべく緩やかに腰を進める。
「ほら、全部入ったから………………」
 ゆっくりと腰を動かすとソーマはシーツを掴んで耐える。
「………うっ………ううっ………」
「ソーマ………………」
 少し動くだけでも辛そうだった。
 気を逸らそうとソーマの股間で震えている膨らみを触ってやると感じるのかソーマはぽろぽろと涙を零した。
「さ、さわっちゃ…………やだぁ…………」
 手の中でツンと上を向く小さな起立が震えて硬くなる。
 力が抜けてきたのかソーマの表情が変わってくる。動くたびに痛みとは違う声を上げるようになる。
「ふぁっ……………」
 頬を染め甘い声を上げる様子と、きつい肉穴に締め付けられてもう限界だった。
「ソーマ………ソーマ………っ!」
 フサノシンはぶるりと全身が震えて思わずソーマの身体を押さえつける。
 一際強く腰を打ち付ける。
「や………ぁああっ!」
 びくっ、びくっと股間のモノが脈打ちソーマの中に精を注ぐフサノシン。
「あっ………あ……」
 びゅ、びゅっ。
 深いところに注ぎ込まれた熱さに促されソーマも白い精を吐き出す。
「あ…………」
 精を放ってもその余韻をまだ感じているのかソーマはぽろぽろと涙を落とした。
 フサノシンはソーマの顔を見て微笑むと震える身体を抱きしめた。


「……フサノシン?」
「うわぁあぁぁあぁぁぁぁあっ!」
 自分を覗き込んでいる顔に気がつきフサノシンはがばり飛び起き目を擦ると慌てて辺りを見回した。
 ここは木造二階建て築数十年のアパートの一室。
 畳敷きの質素な部屋の真ん中にはお約束通りちゃぶ台が置いてありそういえばその横でうとうとしていた気がするが、春の日差しと風の心地良さにうっかりすっかり眠ってしまっていたらしい。
「なんか僕の名前すごい呼んでたけど……」
「うっ……な、な、何だろうな、何でもない何でもないっ!」
 明らかに怪しい調子で何かを否定するフサノシン。
「……あと」
 ソーマはフサノシンから目を逸らしつつ顔を赤くしてぼそっと言った。
「…………なんか、すごい事も、言ってた…………」
 ゴフッ、と全身から血の気とか酸素とか色々引いた。死にたい、超死にたぃ。何言った何漏らした口から何を吐いた。
「…………すすすスすすすすスゴい事って何でしょうかソーマさん!」
 上ずりひっくり返った声で最後の一縷の望みをかけて一応質問をしてみた。
「……………………ボクを…………その……………………」
 ボソボソボソ、と小さくソーマは口の中だけで何事かを呟いたが式神イヤーは地獄耳でフサノシンにはすっかり聞こえてしまった。
 すみません羽抜いて反物織ったらソレ置いて実家に帰らせていただきますので売っぱらって小金に換えて下さいとか訳の分からない事を呟きつつフサノシンは崩れ落ちた。むしろ燃え尽きて白い灰になった。属性は火だけど鳥だけど燃え尽きちまって心理的に再生不能です。
「ボクにそういう事したいって思ってたんだ………」
 真っ赤になって震えているソーマ。
 それはそうだろう。当然だ。もう駄目だ。風前の灯だ。
 フサノシンはああもぅソーマには呼んでもらえないねさよなら現世、次に呼ばれるのは何百年後でしょうか位の気分で床に崩れていた。
 が。
「我慢、なんて」
「?」
「………別に、いいのに」
「………え?」
 フサノシンは自分の耳を疑った。
「だから、何かしたいんだったら…………」
 ソーマは頬を染めると一息で次の言葉を言った。
「すればいいのに。僕もう子供じゃないんだから」
 ガツン、と頭を陰陽金槌で殴られたような気がした。いやむしろ陰陽釘抜きの尖った部分が前頭葉に直撃した位の衝撃を感じた。
「どうしたのさ?」
 はははははと引きつって笑っているフサノシンにソーマは言葉をかける。
 これは夢だ。今度こそ絶対夢オチに違いない。俗に言う二段オチというやつだ。
 だけど自分の頬を抓る勇気は浮かばない。
 これが夢だとしたら極上の夢だ。
 夢だ、夢で構わない。
 今はただこのありえない出来事に身体の心から溺れる事にしよう。
「んっ……」
 伸ばされた手に誘われるまま座っているフサノシンに抱きつくソーマ。フサノシンの羽根が身体に触れるこそばゆさに小さく声をあげた。
 触れると本当に暖かいソーマの感触に、フサノシンは複雑な気持ちながら嬉しそうに笑い膝の上の相手を抱きしめた。







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