唖唖




 自分の式神が何となく弱っているのは気がついていた。
 だが式神はそんな事を己から口にしよう筈も無く、原因を取り除こうにも心当たりが無い以上どうすればいいのか全く分からずほとほと困り果てていた。
 弱っている理由は何か。
「お前には心当たりは無いか?」
 そう言いながら神妙な顔で額がぶつからんばかりに顔を寄せて来るショウカク。
 自分の式神に聞かれたくないのか小声なだけでなく、ご丁寧にも自分の神操機を長持に仕舞い込んで上から封までかけてある。
 部屋まで呼ばれて何事かと思えば……、とタイザンは胡坐姿で額を押さえた。
「……頭痛か?」
「一寸な………」
 その声に部屋の主、ショウカクは怪訝そうにタイザンを見たが、相手は何時もの通り何を考えているのか分からない笑顔で取り繕ったのでその真意は推し量れなかった。
 目の前の男、タイザンの感情がいつでも見た目通りでないのは分かっている。だから相談する相手としてあまり適しているとは言いがたいのだが、考え抜いた結果タイザンに白羽の矢が立つ羽目になっていた。俗に言う消去法での人選だったが。
「………で、どう思うタイザン?」
 一通り状況を説明したショウカクはタイザンの顔をじいっと見る。
 元気が無いのならモカと栄養ドリンクでも飲ませとけなどと果てしなく適当な事を口走りそうになるのをタイザンはじっと堪えて表情を取り繕った。第一それは眠気覚ましの薬だ。………いや、眠気………。
「………何だその目元の小じわは」
 何事か考え込んでいるタイザンにショウカクは言った。
 細目のタレ目のくせに人のことをよく見ている、タイザンは慌てて表情を作った。それとシワ言うな。
「いや、ちょっと疲れていてな。それよりも確かに心配だな」
 何て胡散臭い笑顔だ、ショウカクはそう思ったが勿論口には出さない。相談に乗ってもらっている以上いくらなんでもそれくらいの礼儀は心得ている。
 一寸くらいは表情にウソをつかせろ、タイザンはそう思いながら目の前の人物に笑顔を向ける。完璧かつ爽やか過ぎて何処からどう見ても作り物です本当に、と注釈を付けたくなるような満面の笑みを。
「…………………………」
 物凄く微妙な雰囲気になったところでタイザンはとっととこの場を切り上げようと口を開いた。
「ショウカク、それは恐らくだが気力が不足しているのではないのか」
「む?」
 胡散臭がっていた所に意外にまともな答えが返ってきてショウカクはいささか面食らう。
「気力……と言っても。私の気力が足りていないという事か?」
「今のお前の気力というより……式神は闘神士と契約すると闘神士より気力を得て力とするが、私たちのように闘神士が長い時間封印されて眠っていたとなると当然式神はその間気力は受け取れない。つまり今気力を送っていても、元々の体力が長い間に目減りしてしまったと考えたらどうだ?」
「ふむ、一理ある」
 長ったらしくソレっぽい講釈にショウカクは素直に感心して頷いた。
「ならば修行でもすればいいのだろうか……」
 難しい顔で頭を捻るショウカク。
 タイザンはちらりと符が張られた長持を見る。その封は恐らく完璧でこちらの様子など中には全く分からないだろう。
「いや、足りていない気力を与えるのだからつまり………」
 部屋に他に誰が居るわけでもないのだがタイザンは声を潜めショウカクの耳元で囁いた。
「………………?」
 合点がいかない顔をしているショウカクにタイザンは再び何事かを吹き込む。
「………………!」
 赤く、というよりは見る見る青く、そして土気色になっていくショウカクの顔色。
 タイザンは立ち上がる。
「だがこのままでも特に障りはあるまい」
「………………」
「それでは私は行くぞ。あちらでの仕事もある、ここでそう時間を取ってもいられないのでな」
「………………………」
 黙りこんでしまったショウカクを尻目に、タイザンは平安式モーニングスーツから垂れた長い裾でずりずりと床を磨きながら何処かへと行ってしまった。
「………………………………………」
 そんな様子も見えていないのか、ショウカクは難しい顔をして座り込んでいた。
 沈黙、沈黙、重苦しくただ沈黙。
 どうしたものかと思い悩んでいるうちにその夜はとっぷりと更けていった。


 泥沼にどっぷりとはまってしまった思考を引き上げるのに一晩。


 翌日。ショウカクが封を解くまで長持の中に突っ込まれたままだった神操機の中の式神、大火のヤタロウはいたく不機嫌だった。
 姿を現さないからといって日がな一日神操機にぎっちりと詰まっているわけではなく、一応周囲の様子を見たり一応闘神士を暇つぶしに眺めてみたり一応周囲を警戒してみたりしなかったり……。とにかく閉じ込められたままというのは気分のいいものではない。
 説明も理由も無く突然閉じ込められたのだから文句の一つ位言ってやろうかとも思っていたのだが、封を解いたショウカクの様子があまりにもおかしかったのでとりあえず言うのは止めた。むしろ歩くのに集中させないと伏魔殿の隙間のガケからどこか分からない場所へ落っこちそうな勢いだった。もしくは宝箱のテレポーターに引っかかって『いしのなかにいる』とか、出会い頭にクリティカル発動で首を確実に刎ねられそうとかそんな有様。まあとりあえず一寸落下しただけで死亡する洞窟探検家並みの体力でなくて良かったと思う訳だが。
 そして夜。
 ヤタロウは完全役立たずの闘神士のお守りに疲れ果てた所で何故か呼び出される。
 何事かと思いながら降神し姿を現すと、そこには単一丁に袴穿き、まぁ要するに髪を下ろして下着一丁程度の服しか着ていないショウカクが神妙な顔でデカい布団を敷いてその横に座っていたと思いネェ。しかも平屋建ての平安屋敷で布団だけ妙に現代風。コレ何処の中途半端な休憩専用宿泊所っていうか何のエロゲー?


ふらぐ?

「……………………」
 ヤタロウは状況は飲み込めなかったがとりあえず桃色の栞ルートに迷い込んだらしい事は何となく察した。一体何のフラグが立ったらこんなとんでもない事に。
 そんな事を思っているヤタロウを知ってか知らずか、ショウカクはぼそぼそぼそと呟き出す。
「………………………………………………」
 とりあえず分かった。
 フラグというか、アレだ、ショウカクお前は騙されている。
 あのタイザンという男、胡散臭いとは思っていたが一体何を考えて……、とふと気がつくと平安屋敷で隣の部屋との境に何故か襖。几帳とか格子とか妻戸ではなく何事も無かったかのように襖で仕切られた部屋。そしてその隙間からどう見ても人の視線。
 鴉とは普通夜は苦手な鳥目を持っている訳だが、ヤタロウの場合その紅い眼鏡こと標準装備の赤外線暗視ゴーグルで闇夜のカラスでも大丈夫。襖の向こうの人影も全部すべてまるっとどこまでもお見通しだ。
「よし間に合った。これから面白くなる所だぞオニシバ!」
「旦那……アンタ暇なんですか………」
「忙しいに決まってるだろう!だから息抜きが必要なんだ」
「そんなの家で黙って寝ていて下さいよ………」
 聞こえてくる悲しそうな呟きに同情する。基本的に式神は闘神士に逆らえない上にオニシバのような犬の性質の式神では何を言われても反論もぐうの音も出まい。








 ここで画面がぴたりと止まり、いきなりプルーバックのデジタル文字が現れる。








おしらせ

『ここから先は有料放送になります。有料放送は各階備え付けの「カード販売機」でプリペイドカードをお求めいただくか、テレビ横のコイン投入口にコインを入れて「ビデオ」にスイッチを切り替えてお楽しみください。』

 自販機やお金入れる箱や切り替えスイッチが見つからなかった場合は後日オフ本になった時にでも通販してねって事でどうか一丁宜しくお願いいたします。





すごい勢いで憤慨しつつ釈然としない顔でTOPへ戻る










































 ………と、先のプレビュー版では上記で終わっていましたが。
 このファイルは改訂版につき、ここから先もご覧いただけます。ブラウザのスクロールバーを見て察した勘の良い方は続けてお楽しみください。



















 そんな悪趣味な覗き屋の存在になど全く気がつかずショウカクは言葉を続けていた。
「………だから……タイザンが言うにはお前に私の………………」
「………………………………」
 その方法は嘘だ、と言い切れてしまう程大嘘でもないのがまた厄介だ。
 式神が喰うもの、気力が一番闘神士にとって無害なだけで実はその他にも食べられる物はある。だがそれを望む式神など普通は居ないが。
 幾許か弱っていたのは確かだ、そして弱っていた理由もタイザンが推測した通りだ。しかしそれは闘神士には関係のない事、時が過ぎれば回復する。そう考えショウカクには告げずに居た。だが思っていたよりもショウカクは自分の事を見ていたようだ。
 必要ない、そう言って用意された状況を放棄する事も出来たのだがこの茶番にあえて乗ってみることにした。ただそれは手っ取り早く回復する手段があるのなら拒む必要も無い、そんな考えからだったが。
 しかしショウカクの、自分が言った事の意味を理解していなさそうなこの様子。
 タイザンにどこまでどう説明されたかは知らないが、ショウカクは結局よく分かって居なかった、そういう事だろう。
 ふむ、とヤタロウは独り言を言った。
 解けて肩にかかっていたショウカクの髪先を指に絡める。
「う…………」
 ショウカクは何か言いたげだったがすぐに黙った。
 その様子をみてヤタロウは今度は手で頭の横の髪を梳く。ショウカクは変わらず何かを言いたげだったが何も言わなかった。
 ヤタロウは繰り返しゆっくりと髪の間に指を滑らせていたが、何度目かに滑り落ちた手は頭に戻らずに、首筋を伝ってそのまま襟元から単の下へと滑り込んだ。
「……………………っ!」




 タイザンはにやりと笑うとショウカクに囁いた。
「式神に気力をやると云えば、ほれ服を脱いで褥の上で…………。後は言わずとも分かるだろう」
 ショウカクにそう囁くタイザンが下卑たオヤジ顔になっているのを見て、オニシバは俯き加減でサングラスのブリッジを指で押し上げる。
 オニシバは溜息と共に主人の背を小突く。
 タイザンは自分の式神が言わんとしている事に気が付いたのか咳払いをし手にしていた扇で口元を隠した。
 だがショウカクは一連のそんな様子など全く目に入っていない。
「…………………」
 考え込むショウカク。
 タイザンは、まあ考え込みもするだろう、と思いながら様子を生暖かく興味深々で見守っていたが、当のショウカクはというと。
『服を脱いで褥で………?それは裸で共寝とか…………。
いや、肌を出せという事は式神に抱きついて気力を移せということか……?』
 そんな程度の想像。
 その程度の心構えしか出来ていなかったのだ、ヤタロウに服を剥がれて身体を探られては愕然どころか驚天動地の晴天の霹靂。
 簡単に言うならなにをしやがりますか服だけ全部脱いだら裸マスクの変態姿になるこの鴉、という感じの驚きっぷり。
 ・ ・ ・ ・ ・ 。
 只今放送中に盛り下がる表現がありましたことをお詫び申し上げません。




 ショウカクは目に薄く涙を浮かべながら肌の上を這うヤタロウの手を拒否する。だが既にこの状況の中式神に囚われてしまった身体は褥の上に倒されて自由に動く事も叶わない。
 袴の紐を解かれて乱れた服の間から入り込む手が肌の上を動き回る。それを拒もうとショウカクは腕で相手を押し返そうとするが全く動かない。
「やっ、やめ…………っ…………」
 押さえ込んでいる体勢とはいえ無闇に暴れられてはどうにもやりにくい。
「…………っ!」
 ヤタロウは自分とショウカクの間で動き回っていた手を頭の上ほどに持ち上げさせ、両手で手首を押さえつける。
 脛で両腿に乗り体重をかけると完全にショウカクを押さえつけた形になる。着物の間から覗く白い肌が上下しているのが見えた。
「……どうする気だ」
 ショウカクは出来るかぎりの虚勢を張って見せる。
 押さえつけられはしたもののこのままでは二人とも動けはしない。ショウカクの視界を覆う黒い影、黒い羽、赤い眼。
 どうすればいいのか、このまま逃げ出してしまえばいいのか。乱れた服のままショウカクは考える。
 その時、腹の辺りにざわり、とする感覚を覚えた。
 ショウカクは慌てて視線を自分の身体に移す。
 なにもない。
 しかし再び何かが這い回る、触られている感触。
 ヤタロウの両手は自分の手首を押さえつけている。脚は床に片膝を付き、反対の脚は自分の腿の上に置かれている。
 しかし腹の辺りに何かが在る、見えない何かが。
 身体の中心の線を辿って掌のような感触が上ってくる。胸の上を探るそれは体温よりも熱く感じた。いや、熱いというより触れられた場所が次々に熱くなる。
「う………」
 身じろぐ。妙な感覚。
 そして息が漏れる。今まで閉じていた感覚を無理矢理にこじ開けられるような、そんな違和感と不自然な高揚。
 熱を持ってきた体から力が抜けていく。
「あぁっ………………」
 肌を圧される軽い衝撃、それは胸の中に沈んでいく見えざる手の重さ。
 それが臓腑を掴んで力を喰らって行くような気配、しかし力を喰われるのと同時に火を移されているような熱さ。
 急激に力が失われ一瞬意識が遠のいたその時、赤い光を放ちながら自分の身体を掴む何かが見えた気がした。
 魂削りの脚、神鳥・八咫烏の化身であるヤタロウが真の姿を現した時にのみ見せる三本目の脚。
「―――――やっ………………」
 喉が空気を通してひゅうと鳴った。
 鼓動が早くなり意識が混濁する。身体の力が抜けていく。
 ショウカクは床の上に四肢を投げ出し崩れ落ちた。
 ヤタロウは力が抜けたショウカクの身体から腕を離す。
「………………うぅ………」
 ここまで自分の思うままに動き相手に抗っていたため押さえつけられていた身体。
 それが今はひどく気だるく指先の動きすらままならない。
 ショウカクは起こされ、褥の上に座ったヤタロウに背中を預ける格好で座らされる。
 辛うじて身体にまとわりついている衣が僅かに身体を隠しているが、既に殆どが剥がれて裸に近い。
 黒い姿がショウカクの背中から纏わり付く。
 人ならぬ手、それが身体の上を這うと白い肌に僅かに震えが走る。
 ヤタロウはそのまま身体を撫でる。ショウカクは今度は暴れる事無くされるがままになっている。
 ショウカクは力の入らない身体の温度が上がるのを感じた。
 肌を撫でられるたびに鼓動が早くなり、時折ぞくりとする感覚が混ざる。胸を抓られて背を反らす。熱い。
 黒い指先が滑り腰骨の線を辿る。下へと。
「……やめ……っ…………」
 ショウカクは拒否の意を示そうとするがそれよりも早く指は触れて欲しくない場所へと辿りつく。
「うぅぅぅっ…………!」
 低く震える。咄嗟に出たその声を塞ごうとショウカクは精一杯手を動かし、腕に絡まっていた服の端を咬んだ。
 他人に触れられた事など無い所。
 式神の手がそれに触れるとまるで感覚が倍になったかのように身体に震えが走った。
 ぞくぞくする。だるく自由にならない身体の中で掌に包み込まれた場所、そこが酷く熱い。
 指の腹で容赦なく起立の先端から露出した肉を刺激される。そのまま掌で全体を擦られる。
 自分でするのとは全く違うその呼吸に慣れなくて、ショウカクは立てていた膝を引いたりしてどうにか手を退けようとするが何の役にも立たない。
 力の入らない両手は服の端を握って漏れ出しそうな声を堪えるのに必死だ。
 膝の裏が汗ばむ。緩急も無くただ一気に上り詰めさせようとする動きに息が上がっていく。それに加えて膨れてどうしようもなくなっている肉の先端、そこを指先で突くように刺激されると勝手に腰が浮く。
 振りほどけない手。抗えば抗うほど絡め取られていく。そして追い詰められる。
 刺激に反応して流れ出してきた透明な雫が絡んでいる指を濡らす。
 それが自分でも分かってしまい肌を染めるが、鼓動を押さえる事も出来ずに一層追い詰められていく。
 漏れ出しそうな鼓動。
 耳の奥で鳴る大きな音に意識の焦点がぼやける、いや一点に集中して、弾けた。
「――――――――ッ!」
 服を強く噛みしめた。声を出さない代わりに強く閉じた目の端から涙が落ちる。
 吐き出した熱は己の肌と自分を弄んだ手を汚してゆっくりと流れた。
 ショウカクは大きく口を開けて息を吸う。噛みしめていた服が落ちる。
 全身が妙な緊張に強張り汗が流れていた。
 終わった、と思った。思っていたかった。
 だがヤタロウの指はショウカクが吐き出したものを絡めて更に下へと場所を移そうとする。
「……何……何を……………っ……!」
 考えが及びもしなかった場所を触られてショウカクは力の入らない身体で抗う。
 逃げ出そうとして、気が急いたまま足元がおぼつかない身体で前に進もうとして、そのまま夜具の上に倒れこむ。
 ヤタロウは半分呆れて後ろから助け起こそうとするが、思い直してそのまま手を腰の上に置く。そしてそのまま親指を尻の間に押し込んだ。
「!」
 肩が跳ねる。腰を後ろに突き出した格好のまま後ろから押さえられてはどうすることも出来ない。
 指の腹が小さな孔を揉む。
「やめっ……!」
 言葉が続かない。
 自分の姿の恥ずかしさに脚を閉じて逃げようとしても脛の上に乗られて押さえられてはどうにも出来ない。
 硬く閉じたその場所の形をなぞり指が動く。細かな皺の一つ一つ、それを認識させるかのように何度も繰り返し動く。
 ヤタロウが何のためにそんな事をするのか考えも及ばない。ただショウカクは恥ずかしさに耐えながらがくがくと震える身体を膝と肩で支えるので精一杯だった。
 精を絡めた指先が孔の中心を突付く。
 びくり、と怯えてその場所は固く閉ざされる。
 それでも強引に指を進める。
「………ッ!」
 息が漏れる音。
 ヤタロウは指先に力を込める。
 強情さと云うよりその不慣れさに焦れながらも再び指を股間へと、精を放って敏感になっている肉柱へと指を滑らす。
 嚢を指の間に挟み軽く締め上げる。
「んっ……んっッ!」
 感じるのか、僅かに高い声が上がる。
 手の中で揉む。
「はっ…………!」
 ぞくりぞくりと指先が床を掻く。
 再び股間に血が集まっていくのを感じてか内股に緊張が走る。
 その僅かな隙に指が孔の中心を突き沈み込んだ。
「いっ、っ…………あぁぁぁ!」
 髪が床の上で乱れる。
 驚いた声。
 指を締め付けてくる感触。そのまま指を深くまで進めて内側をえぐるように動かす。
「……ッ!んッ!痛、いた……い…………」
 何をされているのかよく分からないままに敷き布の上で白い身体がもがく。
 ショウカクは浅い息を何度も繰り返しながら自分が何をされているのか分かろうとする。だが今まで知りもしなかった感触に混乱してばかりで考えがまとまらなかった。
 指が抜き差しされて内側を触られる。
「…………ハ…………っ…………」
 押さえられず声が漏れる。
 痛い筈なのに、指が内側の何処かを触る毎におかしくなる。
 再び勃ちあがってくる股間の肉。熱い手が腰を触る。外から、中から。そしてかき回す。
「……ッ!」
 指が増える。
 気が遠くなりそうになる。
 男の大きな手が無防備な身体を後ろから撫で回し、誰にも見せたことのない場所を蹂躙する。逃げ出そうとしても力が抜けた身体は言う事を聞かない、いやそれよりも既に動けという意識を無視し始めている。
 この場所に囚われて動けない。
 嚢の裏を内側から押されて頭の中が痺れる。
 再び漏れ出している先走りの汁は先程放った精の残りを含んで薄く濁っている。それがとろとろと肌に沿って流れきれずに寝具に垂れて布を濡らしていく。
「………………んぅ………っ……!」
 意識せず鼻にかかった声が出てショウカクは口元を押さえる。
 ヤタロウは頃合か、と指を中で曲げて、広げた。
「!」
 びくり、びくりと背が震える。
 腿の内側を流れ落ちる汗にぞくりとした感覚が走る。
「や…………っ……」
 額づき、服を握る。
 その場所が広げられるのが恥ずかしくて堪らない。
 何の為に、何をされているのか全く分からない。
「…………っ!」
 意識が塗り替えられていく。
 まるでこうされる事を望んでいたかのように。
 指が動くたびに意識が白く落ちていく。
 だが残った理性がそれは違うと抗う。
 訳の分からない衝動に身を任せそうになる己を恥じるかのように肌が染まる。
「んは……っ…!」
 内側を弄っていた指を抜かれて声が上がった。
「…………」
 理由の分からない喪失感に意識を向ける間もなかった。
 安心し力が抜けたところに後ろから硬いものが当てられる。
 それが何なのか、分からなかった。
「力を抜いていろ」
 囁かれる声。
 何故、何が。そう聞き返す暇も与えられなかった。
 突然熱い塊が先程まで指に犯されていた場所に突き入れられる。
「!」
 ショウカクの全身が強張り緊張が走った。
「やっ……は…………」
 喉が震えた。
 目が見開かれ、潤む。
 暫し後に、自分が何をされているかの見当がついた。
「あ…………」
 信じられない。
 熱い怒張が自分の内に在る。背後から突き入れられて、そして自分がそれを受け入れている。
 痺れる痛みの中から緊張と脈動が伝わってくる。
 息を吐くと目から雫が零れる。
 身体が揺れるたびに音が聞こえた。
「ヤタ……ロウ…………」
 半開きの口から名前が漏れる。
 身体の中を抉られる、そして抜かれる。
 ヤタロウの肉柱で貫かれている、後ろから、自分の身体を。
「いた…………きつ…………」
 手がすがる物を求めて手近な布を握る。
 どうしようもない。
 眉根を寄せて唇を噛む。そんな事で耐えようとしても声が上がる。
 辛い。
 ぼろぼろと涙が落ちる。
 痛みに萎えかけているショウカクの股間をヤタロウの手が扱く。
「んっ……んっっ…………」
 その動きに少し気が紛れて強張っていた身体が楽になってくる。
 指が這う。
 その度に身体が動く。
 痛みと股間から与えられる快感が混ざり合って声を抑えることも出来なかった。
 上がる声は、動く体は、何に因るものなのか。
 ショウカク自身も分からないまま身体を動かす。
 痛みに混ざってくる得体の知れない痺れ。
 やがてそれは全てが痒さにも似た焦れになり、そして快感へと変質する。
 信じられない、考えられない。
 考えられないまま身体は勝手に相手を貪ろうとする。
「あ………」
 熱い体温を否応無く感じさせられる。
 身体の内で、敏感な場所で。
 尻の柔肉に突き立てられ動かされる剛直。
 握られた股間から半勃ちのまま流れ落ちる精。突き上げられるたびにとろとろと雫が垂れた。
 おかしくなりそうだった。
 掴まれた腕の中で何度も、何度も意識が戻らず消え落ちそうになった。
 肩から流れ落ちる髪に指を絡められるとそれだけで感じた。何も感じていなかった筈なのにと床に倒される前の自分が一瞬過ぎ、羞恥に震え意識が焼ける。
 触れられているだけで、その温度がまるで繋がっている場所と同じように生々しく感じられて体の奥から震えた。
 そしてまた達する。
 腰を揺さぶられるとその存在を、温度を、自分の中に感じて意識が高揚した。
 堪らずにまた気を遣る。数えられない、思い出せない。
 式神の見えざる爪で感覚をこじ開けられた身体は深くで繋がったまま、羽先で触れられただけでも達してしまいそうなほど鋭敏になっていた。
 受け止めた感覚全てが快感に繋がっていく。
 ショウカクは爪で床を掻いた。
「は…………はぁ……ッ!」
 何度目か、ヤタロウの手の中で肉が跳ねた。既に流れ出す精も尽きてただ痺れと意識を飛ばす感覚だけがショウカクを襲う。
「や…っ………離…っ…………」
 そんな言葉を呟きながら白い布の上で震える肢体。
 その都度締め付けられる剛直。咥え込んだモノから精を絞ろうとするかのようにきつく収縮する肉襞。
「あ、あはぁ……っ!や、ヤタロ………ウ………!」
 名前を呼ぶ。
 身体が今まで以上に熱く脈動した。
 声に答えるように腰を揺らす。
 ショウカクは良い所を擦られてまた意識を飛ばす。肉が強く締め付けた。
 限界だった。
 ヤタロウは柔壁を抉っていた己を引き抜いた。
「……ッ!」
 一気に深くから引き抜かれショウカクは喘いだ。
「あ…………!」
 身体に満ちた感覚に震え弓なりに仰け反る背。
「ッ!」
 その背中に放たれる濁液。
 熱い飛沫をかけられてショウカクは肌を染めて身震いする。
 同時に、また軽く意識が消される。
「熱…………っ!」
 背から、腰から、身体の奥から。下半身から感覚が溢れて意識が浚われる。
 自分の放った薄い精と、背中に放たれた濃厚な精。それら全てが混ざり合い肌が汚される。
「………………ん………は…っ」
 ショウカクは背を駆け上がり頭を充たす痺れに喘ぎながら、肌に放たれた熱が滑り落ちていく感覚に膝を震わせ身体を支えられなくなる。
 腰を支えていたヤタロウの手が外れるのと同時に身体は崩れ落ち、ショウカクは床に全身を預ける。
 ショウカクは力が抜けた身体から何か言葉を形作ろうとする。しかし意識は拡散したままでうまく言葉にならない
 身体から抜けていく痺れに未だ酔わされたまま甘い息を吐く。
 布の上で紅に染まった身体がゆるりと蠢いた。
 そのショウカクの背にヤタロウの手が軽く触れると肌が小さく跳ねた。
 崩れた熱い身体を抱き起こしたヤタロウ。
 ヤタロウはショウカクの汗ばむ身体に単を軽く纏わせると、向き合う姿にして己の腕の中に収めた。
 ヤタロウは自分の腕の中の相手を見る。
 己の肩に無防備に置かれるその頭。
 視線は合わない、だが耳元で繰り返される甘く爛れた呼吸。
 それを聞かれる事を厭わずに預けられてくる重さ。
「…………」
 白い指がヤタロウの服を掴む。
 指は震えながら、肩口の布に手をかけ懸命に握り締めた。
 力が入らないのか、くたり、と動けなくなっている全身。
 ただ指先だけが懸命に服を掴んで。
 そして、抱きしめてくる。
 ショウカクの頬を流れ落ちた涙がヤタロウの肩を濡らす。
 腕の中で震える肌。それは無心に全てを預けてくる己の契約者。
 そして、長きを共に歩んできた者。
 ヤタロウは何も言わなかった。
 何の言葉をかけることもしなかったが、黙ってその背を撫でた。






 一方その頃。
 恐らく皆から忘れられている隣の部屋でも襖越しに似たような状況になっていたが、今回は時間の都合の関係で今夜貴方の夢の中でお送りさせていただきます。
 [※なお放送は一部地域のみ・又は予定変更になる場合がございます。予めご了承ください。]






 御殿の廊下を一直線に進んでくる狩衣姿の男。
「タイザン、説明してもらおうか」
 とてつもなく不機嫌な顔をしてショウカクはタイザンに歩み寄った。
「説明?何をだ」
 タイザンは涼しい顔で答える。
「だから!式神と、あ、あんな………………」
 説明しようとしながらも途中で言葉を濁してしまうショウカク。タイザンは相手が言わんとしていることを分かっているのだが面白そうにその様子を眺めている。
「だから!その………あんな事をして本当に………………………」
 言い澱んでいるうちにとうとう言葉が続かなくなってしまったショウカクに、タイザンは目を細めて言った。
「他の方法もあるにはある」
「だったらそれを先に言え!」
 ショウカクは知らず大声になる。
 荒い調子のショウカクを冷静に受け流し、にたり、タイザンがそんな笑いを浮かべたように見えた。
「簡単だ。―――式神に己の血肉を喰らわせれば良い」
「な……!」
 続く言葉を失うショウカク。
 タイザンは言った。
「……冗談だ。私は嘘は言っていない。他に方法があったら私だってそうする」
 また薄く笑ってショウカクに背を向けると、タイザンは暗い廊下の向こうへと消えていった。
「あ………」
 声が喉で詰まる。
「………あの男が言うと冗談に聞こえん!」
 簡単に騙されてしまった事を取り繕うかのようにショウカクは独り言を言ったが、実際タイザンという人間は仲間同士であるはずなのに考えの底が知れない。
 時折その言葉に寒気すら覚える。
 ショウカクはふと背後に気配を感じてゆっくりと振り返る。
「………………何だ」
 普段姿を現さない自分の式神がそこには居た。
「確かに随分楽にはなった」
 うっ、とショウカクは言葉を詰まらせる。やはりヤタロウは弱っていたらしい。そしてタイザンに言われた通りのやり方で自分の精気を食わせたことで回復した、そういう事だった。
 ショウカクはそれはそれは渋い顔で言った。
「………………………それで、まだ要るのか」
 何を、とは言わない。
「………そうだな」
 正直無くても構わなかったのだが、ヤタロウはあえてそう答えた。
「………………………………」
 嫌な沈黙が流れた。
「………分かった、考えておく………………」
 よろよろと振り返るとショウカクはおぼつかない足取りで歩き出した。
 ガン。
 いい音を立てて柱へぶつかる。
 ショウカクにとっては悩み事が増えたようである。
 ヤタロウにとっては面白いことが増えたようであったが。
 結局全員に遊ばれるだけ遊ばれた事にも気がつかず、ショウカクは溜息をつくのであった。
「唖唖……」
 鴉の鳴き声にも似た響きの音。
 ショウカクは空を仰ぎ肩を落とした。


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